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LUI / LUI
橋本徹 (SUBURBIA/アプレミディ) 推薦
どこまでも澄みきった水色に輝く空と海。真っ白に広がる砂浜。風の匂いや波のささやきが甘やかな瞬間を封じ込めた、旅先からの絵葉書のようなアルバム。まろやかに語りかける歌声と柔らかく溶け合うアコースティック楽器の温もり。「My Lover」「Oh, Oh」はときめくような、切なさに胸を締めつけられる名曲。すべてがピュアでロマンティックで美しい。(「Suburbia Suite; Evergreen Review」より)
1978年ハワイ録音。トレジャー・アイランドからのとっておきの贈りもの。2010年の夏はこのアルバムと共に海に向かうことができる。僕には8年ぶりのことだ。
2002年の暮れ、オープン仕立てのアプレミディ・セレソンの品揃えの目玉のひとつとして、『LUI』のオリジナル・レコードを手放して以来、またどこかで買えるだろうと思い続けてきたが、再びこの名盤とめぐり会うことはできなかった。ライナーをお願いしたハイファイ・レコード・ストアの松永良平氏に訊いても、もう8年以上は入荷していないという。
2001年と2002年の夏、僕はこの一枚を本当に繰り返しよく聴いた。東京の街はカフェ・ブーム真っ盛りだった。自分もささやかながら幸せを謳歌していたように思う。そんな気分に“MY LOVER”という歌が甘美なまでにフィットした。人生の至福を祝うラヴ・ソング──“She's very sweet and also mellow”。それはまさに「心地よい奇跡」そのものだった。
今年の5/2、友人のユズルがNujabesの追悼12インチを手に入れるため渋谷に来て、ギネス・レコーズを訪ねた後、何気なくディスクユニオンに寄ったのが、もうひとつの奇跡の始まりだった。最初は目を疑ったという『LUI』のジャケットに9,500円の値札。95,000円の間違いではないか、何度も確認したという彼は、その日が誕生日だった自分へのバースデイ・プレゼントに、と新品同様のその盤をあわてて購入したのだった。そして裏ジャケットに記載されていたクレジットをたどることによって、ルイ・ウィリアムス本人とのコンタクトが実現し、今回のアプレミディ・レコーズからの世界初CD化に至る。持つべきは友、ユズルにはどれだけ感謝しても足りない──ありがとう!
いつの日かスリーヴに映るマウイ・サーフ・ホテルに旅して、このCDを聴いてみたい、というのが僕とユズルの夢だ。エメラルドの海と透き通る青空に囲まれて、それは天国の調べのように響くはずだ。水の色も風の感触も、夢のように優しく、甘く感じられるだろう。
TATIANA PARRA / INTEIRA
橋本徹 (SUBURBIA/アプレミディ) 推薦
昨年のアンドレス・ベエウサエルト(アカ・セカ・トリオ)の名作『DOS RIOS』での神秘的な歌声も印象的だった、ブラジル“novos compositores”とアルゼンチン“folklore moderno”という現代最良の音楽シーンをつなぐサンパウロの女性シンガー、タチアナ・パーハのファースト・ソロ・アルバムが遂に登場。キューバのオマーラ・ポルトゥオンドからイヴァン・リンスやカルロス・アギーレまで、すでに参加作が30枚を数える彼女らしい、表情豊かで軽やかに舞うヴォイスとナチュラルで美しい流麗なサウンドが溶け合って、繊細かつ強い意志を感じさせる音世界が広がっている。
伸びやかに扉を開ける“ABRINDO A PORTA”で幕が上がり、ミナスの素晴らしいシンガー・ソングライター、セルジオ・サントスのペンによるしっとりと瑞々しい“BANDEIRA”はセーザル・カマルゴ・マリアーノのピアノも詩情にあふれ、さらにビル・エヴァンス〜キース・ジャレットの系譜をつぐ優美なブラジルのピアニスト、アンドレ・メーマリとセルジオ・サントスによる共作“VENTO BOM”、サンパウロ新世代の旗手ダニ・グルジェルとのしなやかな共作“DEPOIS”、アカ・セカ・トリオをバックにフアン・キンテーロと歌うイヴァン・リンスのサウダージ漂うカヴァー“CHORO DAS AGUAS”と美しい旋律が続き、ボディー・パーカッション集団バルバトゥーキスとの共演でノエル・ホーザの古いサンバをモダンによみがえらせた“AMOR DE PARCERIA”、ミナスの「街角クラブ」を代表するミルトン・ナシメント&ネルソン・アンジェロによる宝石“TESTAMENTO”のカヴァーなど聴きものが連なり、『美しき音楽のある風景〜素晴らしきメランコリーのアルゼンチン〜』の特に中盤の流れがお好きな方には必ず気に入っていただけるだろう。
中でも個人的に白眉なのは、ラストに置かれたアントニオ・カルロス・ジョビンのカヴァー“SABIA”。もしこの作品が2007年までに生まれていたら、絶対に『JOBIM SONGBOOK FOR CAFE APRES-MIDI』に収録していたはずだ。アンドレス・ベエウサエルトのフランス印象派的なピアノに始まり、『DOS RIOS』と同じメンバー編成で、チェロはカルロス・アギーレの盟友フェルナンド・シルヴァ。モレレンバウン夫妻&坂本龍一の『CASA』に入っていたこの曲の物哀しさを愛する貴方もぜひ聴いてみてほしい。
HARUKA NAKAMURA / TWILIGHT
武田誠 (アプレミディ・セレソン) 推薦
“陽が沈んでから夜が来るまでの淡く美しい時間に捧げる”というテーマによって紡ぎだされた作品。アートブック形式のCDパッケージに掲載されている、夕暮れの光景を本人がポラロイドで撮影した写真を眺めているうちに、CDを家で再生する前にそんな夕暮れどきの風景を見たくなって、近くの東京湾へ行ってきました。ちょうど時間的にぴったりだったのか、写真そのままの夕暮れの光のグラデイションを目の当たりにしながら、波と風の音だけが漂う場所に佇んでいると、忘れかけていた懐かしい音楽的なものが空中に漂っているのが感じられました。そして今、その時間への思いを反芻するようにCDを再生。掴もうとしても指の間からぽろぽろとこぼれ落ちていくようなピアノの淡く印象的な旋律、遠い海鳴りのように表情を欠いた音色が胸に突き刺さるホーンの響き……、それらが美しい余韻を残しながら、深い闇へと包まれていく前の儚い時間の音の風景を描いていきます。誰もが深く感情移入できる瞬間が必ずあるはずの、心を鎮めてくれる夕べの調べ。時空を自在にデザインするような無性にメランコリックになる一枚です。
DAVE FRISHBERG / OKLAHOMA TOAD
武田誠 (アプレミディ・セレソン) 推薦
グッジョブとはまさにこのこと! ブロッサム・ディアリー“I'M HIP”の作者であり、『マルチプリケイション・ロック』などボブ・ドローとの仕事でも知られる、ジャズ・ピアニストでコンポーザーでシンガーのデイヴ・フリッシュバーグのファースト・アルバムが正式復刻に。しかも、CTIリリース当時のクリード・テイラーによるオリジナル・ミックスに加え、なんとデイヴ・フリッシュバーグとプロデューサーのデイヴィッド・ロスナー&マーゴ・ガーヤンによる曲順まで違う幻の“プロデューサーズ・ミックス”(!)を収録した2枚組デラックス・エディションとして登場。裏方のソロ作品としては、その風貌ともどもジョン・サイモンを想起させるような、ジャズのテクスチャーを持ったフォーキーでポップなアルバムの最高峰。複雑に構成されたナイーヴでソフト・サウンディングなメロディー・ライン。とりわけ、エルヴィスの楽曲の邦題を並べた大瀧詠一の“いかすぜ、この恋”にも匹敵する、当時の野球選手の名前を歌詞に羅列した“VAN LINGLE MUNGO”のとびきりのヒップさはたまりません。CTI1000番台のアシッドでグルーヴィーなラインナップの一角を成す名盤の素晴らしいリイシューです。
CARLTON AND THE SHOES / THIS HEART OF MINE
中村智昭 (MUSICAANOSSA/usen for Cafe Apres-midi) 推薦
ラヴァーズ・ロック〜ロック・ステディー、そしてフリー・ソウル・シーンにおいても屈指の名盤として名高いカールトン&ザ・シューズのセカンド『THIS HEART OF MINE』(1981年録音)が、初の紙ジャケ&オリジナル・デザインで久しぶりにCDリイシュー。涙に涙、最高にして永遠の大名曲と言い切ってしまいたい“GIVE ME LITTLE MORE”に、ダンスフロアで何度胸を熱くしたことでしょうか。僕が過去に手にしたアナログの再発は、ジャマイカ盤お得意の(?)プレス・ミスで激しく音が揺れるものだったので(時にはそれもまた気分だったりするのですが)、こうしてクリアなサウンドで作品を気軽に楽しめることに感謝の気持ちでいっぱいです。「音楽のよろこび」を体現する奇跡のレコードが、愛ある形でこうして今また僕たちのもとに届けられる幸せ──タワーレコードさんが企画する「2010 : A GOOD MUSIC ODYSSEY」シリーズ、今後のラインナップにも期待いたします。ただ、ライナーノーツにどうしても読み流してしまうことができない、強い違和感を覚える部分があることは、とても残念だったのですが。
THE ROOTS / HOW I GOT OVER
中村智昭 (MUSICAANOSSA/usen for Cafe Apres-midi) 推薦
ヴェテラン・グループによる充実の9作目にして会心の一撃! イントロのブレイク部から血がたぎる先行シングル“HOW I GOT OVER”の疾走感が、とにかくたまりません。そして妖艶に折り重なるコーラスにフェンダー・ローズが揺れる“A PEACE OF LIGHT”、シンプルに繰り返されるピアノのリフがじわりと迫る“RADIO DAZE”、スムースかつメロディアスな“NOW OR NEVER”に“THE DAY”、ジョン・レジェンドの“AGAIN”を本人と共にカヴァーした“THE FIRE”など、その全てが当然にヒップホップでありながらジャジーにグルーヴする凝縮感たっぷりのソウル・アルバム。「孤独に逸脱してしまった人生から、希望に向かって旅立とう」というのが、本作における彼らからのメッセージ。こんな作品に触れると元気が出ます。まさに、この夏のカンフル剤かと。
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