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■6月7日──橋本徹のコンピ&パーティー情報




「五月雨の降り残してやアプレミディ」──稚拙な下の五のおきかえだが、今日も閑寂の美を尊び慈しむような気持ちで『美しき音楽のある風景〜素晴らしきメランコリーのアルゼンチン〜』を聴いていた。選者の意を思わずこえて、詩味に富んでいる、詩魂にあふれているコンピレイションだと思う。「美しい感じが読者の頭に残りさへすればよい」という、夏目漱石が自著「草枕」について語った言葉を思い浮かべた。
僕はこの春、若草の萌える頃から薫風の季節になっても、夏目漱石と梶井基次郎に私淑していた。『美しき音楽のある風景〜素晴らしきメランコリーのアルゼンチン〜』はこの偉大な神経症のふたりに捧げる、と心の中で決めた。このメランコリックな作品集は、しばし「草枕」言うところの“非人情”の天地に誘ってくれる。そういえば「草枕」に挿入される漢詩の多くは、「I'm Only Sleeping」(byジョン・レノン)的な境地から詠まれているなあ、とぼんやり考えているうちに、グレン・グールドが聴きたくなった。彼のピアノによるブラームスの間奏曲集は僕の長年の愛聴盤で、坂本龍一氏も「山水画のような演奏」と評して旅先に必ず持ち歩いているそうだが、『美しき音楽のある風景〜素晴らしきメランコリーのアルゼンチン〜』と聴後感がとてもよく似ているのだ。陶然と懐かしい気持ちにさせてくれるところが。
そして、グレン・グールドが弾くリヒャルト・シュトラウス「Funf Klavierstucke op.3 Andante」に耳を傾けながら、逆説のロマンティストとも言われた彼の「孤独」について考える。彼が求めた内省的態度と美的ナルシシズム。マーシャル・マクルーハンがメディア時代到来にその効用を説いた“Detachment”(超然性)という語はグールドも好んだ言葉だが、英訳「草枕」では“非人情”にあてられている。情報過多でありながら本当に大切な情報は少ない現代に生きる僕らにとっても箴言ではないか。
“Detachment”の精神に則り、と言い訳するわけではないが、僕は先週ほとんど仕事をしなかった。昼近くに起きて、ひたすら水を飲み、とろろ蕎麦か納豆蕎麦を啜り、前夜の酒が抜けるのを待つ。夕暮れ前にわずかに選曲の仕事をして、夜になるとシャワーを浴びて酒を飲みに出かける。僕はふと「ティファニーで朝食を」のホリー・ゴライトリーのことを思い出してしまった(もちろん小説版の、です)。
自らの則に従う正直さに殉じ、普通よりは自然になりたくて、檻の中に閉じこめられた動物を目にすることに耐えられず、42歳以上の男じゃないと燃えてこないホリー・ゴライトリーが、僕は好きだ。酒を飲むのも音楽を聴くのも、彼女が“いやったらしいアカ”に心が染まりそうになると、タクシーをつかまえてティファニーに行くのと同じだ。梶井基次郎は「檸檬」でそれを“えたいの知れない不吉な塊”と書いていたが。
「イノセンスの中に生きようとし、イノセンスが失われたとき(多かれ少なかれそれはいつか失われることになる)、そこに残されているのは婉曲な自傷行為でしかない」と村上春樹は訳者あとがきで綴っているが、その先には何があるのだろう。僕が求めるのは、奇しくもトルーマン・カポーティが「僕」とホリーについて描写した、「人と人との気持ちが深いところで穏やかに通じ合うと、しばしば言葉でよりは沈黙を通して、多くを理解し合えるようになる」こと、のような気もする。心の落ちつき場所、言ってみれば「静かな生活」「おだやかな暮らし」。そうでなければ救いがない。僕はこの小説のラストにひどく惹かれる。「そこがアフリカの掘っ立て小屋であれ、なんであれ」という部分に。現代のフェアリーテイル(寓話)は、純粋さへの鎮魂の調べでなければならない、と僕は思う。それは儚く美しい。
それでは最後に、そんな無為の日々の夕方のわずかな選曲の仕事についてひとつ。具体的に何をしていたかと言うと、7/22発売予定のアプレミディ・レコーズ第6弾コンピのために、夏の夕暮れに心地よいだろうチルアウト・メロウな曲を、ジョー・クラウゼル関連とそこから連想を広げたアーティストの中からいくつか選んでいた。ちょうど1週間前、僕にとっても心に残る時間になった「Bar Music」のオープン記念DJをきっかけに、一気に新しいコンピレイションのイメージが湧いたのだ。「Bar Music」にはカフェ・アプレミディ開店当初の良さがかなりの部分で受け継がれていると思うが、そこで『美しき音楽のある風景〜素晴らしきメランコリーのアルゼンチン〜』もよく流されていると聞いて嬉しかったので、今度は私家版のカルロス・アギーレ・ベストを贈ろうかとも考えている。本来ならこういう心を落ちつかせる選曲は、僕よりも中村智昭の方が得意なはずなのだから。
6/11(金)には毎度楽しいDJパーティー「Lots Of Lovin'」がカフェ・アプレミディで開かれるので、このページの終わりに掲載されるフライヤー原稿を読んで楽しそうだな、と思われた方は、ぜひお集まりいただけたら嬉しいです。お待ちしています!

追記:先ほどNHK教育で放映された「極める! 石井正則の珈琲学」という番組を観終わったところ。川口葉子さんが案内する「小さな幸せを見つけるところ」というテーマで、カフェ・アプレミディがフィーチャーされていたのだ。オーナー自身のセンスと思いが表現された東京カフェの時代の「柔らかな個人主義」(もうひとりのナヴィゲイター、上智大学教授・小林章夫氏の言葉です)を象徴する店として紹介されていたのに照れたが、よほどディレクター氏が物のわかった方なのだろう、カフェ・アプレミディのシーンではずっとチェット・ベイカーの「Do It The Hard Way」がバックに流れていたのが何とも良かった。深いメッセージとして響くはず。「カフェは個人の幸福を考える場所だと思います。作り手にとっても、お客にとっても」という川口さんの発言も琴線に触れた。座右の銘のように「木瓜咲くや漱石拙を守るべく」という句が浮かんだ。
7月に平凡社から発行される川口葉子さんの新刊「東京カフェを旅する」には、僕も拙いエッセイを寄稿している。ちょうど今日、再校ゲラを返したばかり。サリンジャーの死を機にホールデン・コールフィールドへの共感をこめた、赤面するほど感傷的な青くさい追想文。僕は歳をとっても「キャッチャー・イン・ザ・ライ」や「ティファニーで朝食を」のような小説が好きなのだ。翼の折れたイノセンスの行き先を案ずる小説が。

再追記:今月末から全国のUNITED ARROWSの“green label relaxing”のショップBGMの選盤を手がけることになりました。今夜はこれからジョージ・プリンプトンによる評伝「トルーマン・カポーティ」を読み返そうかと思っています。

「Lots Of Lovin'」
6/11(金)22時から翌5時までカフェ・アプレミディにて¥1,000(1ドリンク+さくらんぼのタルト+先着50名様スペシャルCD-R)
奇跡の顔合わせが遂に実現しました! みんなが好きなキラキラした90年代の雰囲気を、音楽好きな人にたくさんの愛と歴史的な一夜を、すばらしい音楽と共に!(ユズル)

DJ's Choice for Lots Of Lovin'
The Brand New Heavies / You Are The Universe
90年代の輝きが詰まった、僕らの世代のエヴァーグリーン。思わず腰が動く艶かしいグルーヴ。やがて訪れる大空へ羽ばたくようなサビで一気に天まで昇りつめる瞬間、フロアに笑顔の花が咲く。さあ、声を合わせ、心を解き放とう。愛を伝えよう。(橋本徹)

Bing Ji Ling / So Natural
夏が近づくと、グルーヴも軽やかにBing Ji Lingなどが気分。古びたJEEPグランド・ワゴニアの窓を開け放つと、くすぐったい潮風が舞いこんでくる。「Home」のアコースティック・グルーヴの波に乗りに「Lots Of Lovin'」に遊びに来ませんか?(吉本宏)

Arrested Development / People Everyday
ギャングスタ・ラップ全盛時に、生楽器を多用したサウンドとスピリチュアルかつポジティヴな歌詞が逆に大きなインパクトを与え爆発的な人気を博した、Speech率いるArrested Development。彼らの92年のデビュー・アルバムからのヒット「People Everyday」は、ジャズの名曲「Tappan Zee」のリズム・ギターにSly & The Family Stoneの「Everyday People」のコーラスを引用したアーシーなナンバー! 山や海などのnature系ドライヴにはマスト! 車内のpeaceゲージMAX間違いなしの一曲です(笑)。(DJ HIGH-D)

D'Angelo / Feel Like Makin' Love
D'Angeloの不朽のセカンド『Voodoo』。名曲だらけのこのアルバムの中から一曲を選ぶのは本当に迷いますが、あえてオリジナルではなくカヴァーのこの曲を。「Feel Like Makin' Love」 の数あるカヴァーの中でも一番好きかもしれないです。マッチョな表ジャケ、まさに“Voodoo”な裏ジャケに戸惑うことなく、音楽を愛する人すべてに聴いてもらいたいアルバムです。一家に一枚。間違いないです。(haraguchic)

DJ 2three / Do You Want It Right Now?
今回は、夏に向けて気分が高まってくるこの時期にオススメの曲です。Dennis Brownの「Love Has Found Its Way」に、Degrees Of Motionの「Do You Want It Right Now」をブレンドしたこの曲は、ギターとキーボードの音色が心地よく響くスウィートなリディムに、彼女の伸びやかでソウルフルな歌声が見事にハマった素敵な一枚! 聴いているだけでとても幸せな気分になります♪ もちろん、Dennis Brownの方も素敵なんですが、今回はこちらをオススメします☆ ドライヴのお供にも最適です! 気分爽快!(DJ CHIEMI)

Nomad Soul / Candy Mountain (Nellee Hooper Remix)
Steve Parks「Movin' In The Right Direction」の印象的なイントロをループにした一枚。抜けのいいぶっといビート、気持ち良さそうに歌う女性ヴォーカル、独特のフワフワした感じがあり、アレンジも抜群! 90年代初めの幸福感出まくりのナイスなミックス。ピンクを使った意味不明なジャケにも何故か引かれちゃう!(ユズル)

title : 美しき音楽のある風景〜素晴らしきメランコリーのアルゼンチン〜

artist : V.A./橋本徹

日本盤CD/特製「本の栞」+アプレミディ・セレソン・オリジナル特典付き
価格 \ 2,400 (税込み) | 在庫 あり 
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